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1973年01月 | ARCHIVE-SELECT | 1973年03月

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前むきと後ろむき

娘が発って

そのあとかたづけをしていた

小さい小物入れのカバンの中を

書きさしのノート

香港の友達から来た手紙

古切手の集まった小袋

その他がある


くずは屑かごに入れ

本棚におさめるべき物はよけた

フランス語 ドイツ語 英語の本

あれもこれも 勉強しようと思って

買ったものだろう

何でもこまめにしたい

気の散る 気の多い娘だった

どれも これも 中途半端で

ほっておく娘だった


かわいい手紙の便せんが出て来た

男みたいな娘だったが

線のほそい子であった

一つの事をしだしたら

いつまでもやっている子だった

かわいい娘らしい便せんをもっていて

花入りもようのその便せんで

香港のリンダちゃんに

返事をかいていたのだろう


かわいい小娘の

いたいけない娘心が

私のむねにふれて来た

嫁にやった後の親のように

娘ののこして発った

そのあとの小物整理をしながら

放すのではなかったという

親心のような 

人生のわびとさびと

あわれさがしみてきた


私はいつも前向きで

あまり居すぎた

かわいい心の故郷

子供心に 青年の心に

少女のかわいい心に

もっと眼をむけて

人間を思い 人間にとどまるべきだった


小さい事 後ろむきではなくとも

小さくとも 前向きで 

わすれて 進みつつある そのわすれ

なおざりにしているものを

今 はっと気付いた

芭蕉のさびのようなものが

いや何といっていいかわからないが

娘を外に出した者の

さみしさが 今頃

わいてくるのだった


人は少年時代に 少女時代に

とどまるべきだった……という事を

人生は忙しいばかりが 人生ではない

かばい合いながら ゆくことが人生だ

前にゆくことばかりでなしに


1973.02.14.
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泣きの主よ

おお 泣きの主よ

私は 泣けます

あなたの泣きの中で

泣きの主の

るつぼの中で

私は 泣きにひたります

泣きの主の

甘いみつのつぼが破れて

流れてゆきます

甘いみつが

徐々にトロトロに

泣きのみつつぼから

流れてゆきます

泣きの主

おお甘いみつの

つぼがこわれる

私はあなたの中でこわれ

流れてゆきます

泣きの主よ

泣きの主の甘いみつのつぼの中で

私はこわれ 流されてゆきます

おお 泣きの主

私は――


この宇宙は

大きな 泣きのつぼのようなものです

泣きの大きなつぼの中に

そのただ中に

私は 坐っています

大きなみつのつぼです


みつは人々を

よろこばすでしょう

それより他に

みつには仕事がないのです

まっただ中に 坐っている私

泣きのるつぼの中に

泣いています


1973.02.04.

| 1973年 | 20:29 | TOP↑

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