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ヴェーダンタアシュラム落成式前

十三、十四日と建築現場は 追い込みをかける
十三日は小雪となり 寒い中を皆が本当によくやってくれた 
東京の池田さんが言っていた通り 各種の作業員が
お尻をぶつけ合いながらの仕上げ合戦が 始まった

十二日は私は朝まで熱があったのだが
そんなことは言っておれない
十五日が落成式なので 大阪のインド人商社をまわって
(十五日には出席してくれる様に)とあいさつをして回る

そして帰園すると 思いもかけず東京から池田義則・浩君の
二名が 応援に来てくれていたのにはびっくりした
電話交換機をもって来てくれたのだ

十三日は早朝から さっそく池田さん親子がその電話交換機を 机にとりつける作業にかかる
電気がないので そのテストも出来ないのだ

二階の現場は 昼前から中西さんのじゅうたん屋の人々が
五、六人つめかけ じゅうたんとフトンを運んできた
ホールは午前中にと 天井のニスを塗り
仕上げをして せわしい

午後じゅうたんをホールに敷きはじめた
ピータイル屋さんが それがすむのを待って
廊下につくもって ピータイルを貼り出した

電気屋 手摺屋さん ペンキ屋さん……がごちゃごちゃで
木工屋さんも「冷たい冷たい」と言いながらせわしくやっている

小雪は少々 樹々を五センチ程白くした
電気屋が電柱に登って 線を引いている。
何せこの五年間 山奥で電気なしのランプ生活を今まで続けて来たのだから
「電気 電気」と どれ程言ってきたか分からない
その電気が 今まさに来ようとしているのだ

「電気屋さんよ 今日中に電気くるのか!」と
小杉という若い現場監督が聞く
「わからん こんな現場しらん!」といって電気屋の
生意気なアンチャンが おこって吐き出すように言う
そりゃ 雪の中を電柱に登っての作業は寒かろう
おこりながら 帰っていった

左官屋さんも 電気が入ったら残業するからと言っているのに
電気屋の若いのがプリプリなので さすがの小杉さんも 
たじたじだ

暗くなって 電気屋が帰ったすぐ後 斎藤さんが
「電気ともっていますよ!」
「本当かね」
「本当ですよ」
――さあ皆 喜んで見に走る

電気がともっていた――新館がパッと明るい
五年ぶりに 電気が灯ったのだから……
池田さんも喜んだ
さっそく ソケットをさしこんで「電気きてる!」
といって 電球の白色のパッと光った明るいやつをもって 
うろうろしている

電話の試験をしはじめた 
電話機オーケー
ランプと電気を交換する。
だが ランプの光の方がなつかしい
こんなに電気が入ったら……すぐランプが忘れ去られる
五年間の闇が消えたが はたして精神的な内在的なものが 
その電気の光の中から出て来るのであろうかと 疑うわしい 
電気への疑惑がわいてくる 
電気がない方が本当はいい

川崎と松井が ホールにつるカーテンづくりに
ランプの光でミシンを動かしている
かたわら神殿では池田さん親子が電話交換機の試験をしている
 
台所に斉藤さんが 蛍光灯を取り付けている。
活字場の隣の畳の部屋に 100ワットの電球がともっている
新館と旧館との合わせの廊下をつぶしてしまったので 
雪どけの水が落ちて 靴の置き場もない

十四日 人手の足りなかった現場に 二人の鳶職人がくる
朝から足場の丸太が 取り外され始めた
いよいよ足場が取られる

ペンキ屋さんはあわてて 
白ペンキの塗り残してある天井の部分を塗る
そのあとを追うように鳶職人は 足場を外している

ペンキ屋・タイル屋・水道屋・大工が 入り乱れている
水道屋が四時頃になって 金具と便器を取り付け始めた

川崎の弟二人が来た 大村君が来た
掃除を始めてくれた
この三人の手が非常に役立った

内の者は もう今日は新館内の拭き掃除
私が新館の監督をして 拭かして 掃いて
拭かして拭かしてばかりしている

奥村君とその友人の亀田さんも役立つ
掃除 掃除 新館の掃除
明日が開館だというのに 人手が足りない
斉藤さんも 外周りの一切をがんばってやってくれている

私は「何をどうしましょう」と問わないで
各自がやってくれるように斉藤さんや宣江ちゃんに言ってある
今の私には何を問われても 返事するするだけの
頭が回転しないから………
めいめいがめいめいの持場を 気のついた所を
かけめぐりやり通す

夕方 北海道から熊沢君が 駆け付けて来る
簗瀬君も来る

旧館の風呂場を 昨日タイルをはったので風呂にも入れない
皆はほこりまみれだ 昨日から――
電気が灯ったのと 外で焚く火の明かりとで
明々している中を 人々が……入り混じって動いている

新館の事務所で 壁紙屋さんが
「暗くて仕事にならん 電球をこちらにくれ」といっているが
便所の便器の取付けの水道屋さんと ペンキ屋さんに
電球をとられてしまっているので 外のたき火の明かりで
壁紙を張るより外に 仕様がない。 

いつのまにか食堂に旧館のテーブルが運ばれ 
椅子もおかれていた
運ぶのが大変だったろう
斎藤さんが皆に指揮して 運ばしてくれたのだ
めいめいがめいめいのその持ち場で てんやわんや 
明日だ 開館が

それに井戸のポンプが動かないので 水が来ない
水道屋さんの半数が 井戸端のポンプの所に詰めかけている
今日中に水道を使えるようにしておかないと 
明日は二百人も来るのだから 小便にもゆけなくなる
大変だ 
水道屋が必死になっているが 万博の工事ばかり行って
今日来たのでは 今日のに間に合わない

内の若い人々は十二時に寝た
水道屋のポンプがまだ廻らないので すったもんだしている
電気屋さんも まだドリルで大きな音を立てて
新館の壁に 穴をあけている
庄司先生も眠れない
電気屋さんが 庄司先生の寝ている部屋に入って
押入れの天井にもぐってゆく
先生もたまったものではなかったろう

小便は出来るが 大便は出来ない
若い者達は新館の新しい部屋で
新しいフトンに入って寝ている

電気屋が部屋の中を終えて 井戸端にゆき
電気のスイッチを入れにいったのが 午前二時頃だった
それでもコンデンサーがないから 廻らないという
水道屋さんも かわいそうに十一日から徹夜(万博工事で)
寝てない人々ばかり
責任上これを仕上げねば 明日の落成式がおじゃんだ
電気屋が帰る
水道屋が どうしようかとためらっている

井上は私に「明日のスピーチを英文にかえねばならぬから 
早く書いてくれ」という。
だが私の頭は 一切が終わらなければ落ち着いて書いて
おれない

――やっと電気屋が五人 一人は「やめて明日にしよう」という
一人の若い衆が「明日やるのなら 今やろう」という
もう三時半だからやってしまってから 寝ようというのである
「わしは今から 家の大きいポンプをとってくるから やってしまおう」と押す
「じゃ」ということになり 若い衆が車でポンプをとりに
二人で行く
残りの者は車で待つことになった
ひとまずこれで終わりとなった

四時 宣江はもう床につくといって 神殿の方に入っていった
斎藤と井上は 新館の八畳で仕事をしている
私は旧館の仕事場で やっと落ち着いてスピーチを書いた
ちょっとうとうとした程 疲れている
井上の所に それを渡しにゆく
四時半だ
井戸屋が四時十分に来て 裏で仕事をしている

斎藤さんは もう一寸寝ますといって横になる
私は井戸端にゆく 
もう外は白々してきた

五時頃だ
井上のところに行ったら 机にふして眠っていた
井戸端に戻る。
ポンプを大きいのに変えたが 水を上げ吸い上げない
――もうダメだ
水道屋は諦めて引き上げる
闇は消えて 道がはっきり見える頃ともなっていた

六時近かったろうか
斎藤さんは五時半頃 起き出してきて
一人で机の準備や 何やら盛んにやっていた

1970.03.14.
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| 1970年 | 21:08 | TOP↑

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